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083 アートと希望と光

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BeGood Cafe Tokyo

ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』
DATE : 2005年11月20日(日)

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』

意外にも今までBeGood Cafeでやったことがないテーマ「芸術」。アートはもはや額縁の中に収まっているものではなく、人々と、世界と交わりながら、現代社会で大きな役割を果たしている。そのアートの現状、そして未来について考える。

[ ゲスト ]
北川フラム 北川フラムさん
アートディレクター、アートフロントギャラリー代表

 

向坂“MOOKY”雅浩さん
エンパシー/プロデユーサー

 

ゲスト プロフィール詳細


ビーグッドTALK−1:芸術の「光」
ゲスト:北川フラムさん(アートディレクター、アートフロントギャラリー代表)

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』『今日は近いところから遠くの話をということで。今、代官山インスタレーション展をやっています。代官山というのは世界的にもおもしろい街を作ってきました。もともと、このホールが面している旧山手通りですが、四車線が通るめずらしい街なんですね。それを活かしながら槇文彦(まきふみひこ)さんという建築家が旧山手通りと建物の間にペデストリアンデッキという遊歩道を作って、パブリックをプライベートにうまくつなげるということをやった。この地域は住居とオフィスとショップがちょうど良いバランスであって、非常に人気がある場所です。でも、それだけじゃ足りないということで、(私が)呼ばれて来たわけです。さまざまな街づくりをやっています。1つ大きいのは、ここの近くにある「代官山アドレス」というのは旧同潤会アパートがあった場所で、そこをどういうふうに作ろうかと。そういうことをやってきています。それで、代官山インスタレーションというイベントを2年に1回やっていまして、今年がその年になっています。審査員はさきほどの槇文彦さん。ニューヨークの国連ビルを作った方です。その方と中原佑介さんという美術評論家と横浜トリエンナーレの総合ディレクターをやっている川俣正さんが4回とも審査員をやっていただいています。その作品を今日紹介します。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』

『左側は代官山アドレスからちょっと下に降りるところで、真ん中に普段は閉まっていて使っていない土地を使ってやったものです。右側はデンマーク大使館に置かれた作品で、建築家の中村さんという方の作品が選ばれた。大使は大喜びです。旧山手通りを上がってきたら西郷山公園というのがあって西郷従道という西郷隆盛の弟で海軍大将をやっていた人のお屋敷です。そこを降りていくと菅刈公園があります。(左側は)山口さんという大学の先生が作った作品で、人が近づくと録音機が回っている。それに向かって、みんながしゃべっているんです。次の人は前の人のメッセージを聞くことができる。子どもたちはすごく喜んでいるんですね。』

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『これは時間によりますが、東横線に3、4、5両目の窓に絵が描いてある。ちょっと見えにくいですが、白い線が入っていますよね。駅に着くと窓に描かれた線と駅の後ろの風景がぴたっと一緒になる。よく東横線がOKしたなと思います。』

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『これはすごいんですよ! 産業能率大学の壁にメッシュを貼って、メッシュに矢印がついている。矢印にアクリルの羽が付いていて、風を受けるようになっていて、反対側は重りが付いている。このあたりの風は部分的にこんなにも違うんだということがわかります。つまり右を向いている矢印があったり、左を向いている矢印があったりするわけです。つい最近も朝日新聞にカラーで出ていましたね。建築の大学院生が作って、これとさっきのテーブルの作品(『代官山リビング』)がグランプリをとりましたね。矢印の色が少しずつ違う。青と白のグラデーションがついていて、これは東京の空の色を研究したデータでこのようになっています。こんな風にしてね、街ってところはおもしろい場所がいろいろあるんですよ。それを回遊して回れるようになっているわけです。

 こういう形の街ぐるみでのアート展示を仕掛けていこうと思ったのは10数年前からですね。立川のファーレ立川というところに昔の米軍基地跡があって、そこに37か国92人のアーティストが、街の車止めや換気塔なんかの建物の機能を保ちながら作品に変えたんです。自慢みたいで恐縮ですが、これは今世界の街づくりのモデルになりました。アートが街に入ることで、どれだけ楽しくなるか。場所や施設や建物をつなぐ、そういう役割を持っているんです。代官山もそうですが、街を歩いていくうちに、街に親しんでもらえる仕組みにしている。』

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『中目黒GTという建物があるのですが、Gate Townという略で、これ僕が名前を決めた。普通は変な名前になるじゃない。なんとかビルとか、そういうのは嫌だし、ちょっと恥ずかしい名前とかもあるでしょ。そういうのは嫌だったから中目黒にあるGate Townだから中目黒GTという名前にしたんですよ。レバノン人アーティストのナディム・カラムの作品や、灯りが置かれていたり。普通のクリスマス・デコレーションとは全然違う。
 ナディム・カラムは奈良にある東大寺の大仏殿の南側、鏡池というところを全部を使ってすごいことをしたんです。奈良というのは灯りですごく有名な場所ですね。この代官山に奈良県の「代官山iスタジオ」がありますよね。そこで縁ができて奈良県の名産品であるキャンドルを使ってやっている。2010年に奈良の平城京ができて1300年です。ですから、今その宣伝を一生懸命やっているわけです。無料ですから行かれるといいです。仏像の写真なんかもあって、おもしろいですよ。よくチェックしておくと奈良のおいしいお酒が飲めたり、食事が食べられたりすることもあります。』

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 『これからが本題。これは新潟県の越後妻有(えちごつまり)でやっているアートフェスティバル。越後っていうのは今の新潟あたりのことで、妻有というのは「とどのつまり」という言葉の由来になったぐらい、山の中で人口が少なくて大変な場所。去年の10月23日に中越大地震が起きたのはこのあたりです。この写真は田んぼですが、人間の手で鋤とか鍬で作ったところはいいんですが、大規模に整備した田んぼはダメですね。このように崩れました。それで、ここに2000年から3年に一度アートトリエンナーレという芸術祭をやってきました。若い人が手伝いに来て、地元の人と仲良くなったりしています。』

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『妻有は1市4町1村ですね。今は合併したから十日町市と津南町だけになりましたが、東京23区か琵琶湖よりちょっと広い地域です。この地域は過疎で人が少なくなっている上に日本は農業を捨てていき、だんだん荒れていく。自分たちが1500年やってきた農業をやる場所がなくなっていく辛さ。その耐え難いことに、みんな元気がなくなっていく。そこで、アーティストが入ってアートの力で町を変えていこうという試みです。それで元気を出していこうと。そういうことを発表したんです。ところが、地元の議員さんが6市町村で100人いるんですが全員が反対したんです。

 でも、こっちも準備し始めちゃっているしお金も自分たちでなんとか作りながら進めてたんでね。それで、結果的に言いますと1回目は強引にやっちゃって。そしたら、けっこうみんな楽しかったわけですよ。で、あちこちの集落が「うちもやりたい」って言い出した。アートを通して何かやろうって来たんですね。

 越後妻有は平らな土地がないから、昔からいろんな人がものすごく努力して田んぼを作ってきた。けれども、日本は農業をやめましょうという方針ですから、田んぼもやらなくなる。棚田っていうのはブナ林などと並んで自然のダム。田んぼをやめると土砂崩れの元になる。今日、主に見せる松代町では人口が減っていて、昭和30年代の終わりには1万4000人いたのが、いまは4000人です。2030年には1400人になる。ということは、コミュニティも全て崩壊するという事です。ただ、最近違うデータが出てきた。1800人になるんじゃないかって。これはなぜかと言うと、さっきも話した若い人とかがここを手伝いたがっているから、それをカウントしだしたところからデータがちょっと変わりはじめている。この地域は里山と呼ばれていて、つまり稲作をしてきて、こういう家があり、景観があって、コミュニティができている。でも、その中心は人ですよ。その人がだんだんいなくなる。でも、景観はいい。なら、これを歩いて見てもらおうと。それで、ここに一度人が来てもらって、見てもらえれば、いろんな事がみんな変わるだろうって計画したんです。そこへ、アーティストに来てもらって、アートを道しるべにして、里山を歩いてもらおうと。東京都現代美術館に行って現代美術絵を100見ると、わけがわからなくなるんですよ。

 だけど、ここだと、作品は広い地域にちらばっていますからね。風のざわざわって音を聞いたり、枯葉だったり、歩く土の弾力だったりと、身体全体が開放されるんですね。そういう中でアートを見てもらいたい。』

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『お金がないもんですから、5年間かけて説得して、アーティストの土屋公雄さんという人と150人の人が一緒に棚田のような花壇の公園をつくってきんです。

 初めはみんな嫌がるんですよ。手間がかかるでしょ。そして、いろいろな人が関わると情報公開しないといけない。だけど実際からいえば、手間さえかけさせれば、この150人の人にとっては自分の公園になるんですね。それで、来た人も喜ぶとうれしいでしょ。で、そういう活動をいろいろやっているのを3年に1回発表している。それが芸術祭なんです。だから道路を作らないかと言っといて、こういうものを作ったり、公園を作らないかと言っといて、こういう公園を作らないかって説得しまわっているんですよ。

 実際はじめ反対するわけ。アーティストが頭の中で考えたものを、人の家とか空き地とか、田んぼの上に作ろうとしたら反対しますよ。バカなことはやめろって。だけど、アーティストはあなたが先祖代々千年以上田んぼを作ってきたことを尊敬している、と。田んぼは美しい。だから、もっと美しくしますよって説得するんですね。で、はじめ反対するんですよ。でも、アーティストはものすごく勉強する。歴史を調べて、材料はこういう材料を使うと。そうすると、「まあ、50日ならいいよ」って言う人が出てくるんですよ。で、みんな見に来るでしょ。そんなに美しいのかって。じゃあ、「もうちょっとやるか」って気になるんですよね。』

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『これは川俣さんが田んぼが崩れて雑草が生えているところを、木道を作って将来これを本当に美しい森に変えようとしているわけです。
 この地域の高齢者の割合は40%。本当に年寄りばっかり。今の日本のあり方は、経済優先です。あらゆるものを効率化。お年寄りは経済効率が悪いと思っている。お年寄りは生きているわけだから、そんなこと言われても困るわけですよ。なんとなく邪魔にされている。で、そのお年寄りになんとか元気になってもらおうと。それで、大学生が全部回って、4500人、1万2000枚の20cmの刺繍を作ったわけです。おばあちゃんはうれしいんですよ。普段は「どんくさい」とか、「またこぼしちゃった」とか言われるわけ。でも、おばあちゃんにとってみれば裁縫は特技。裁縫になれば、ものすごく得意なんです。で、孫娘に教えたりして刺繍を作るわけです。作品がこれだけの規模になると、本当に美しい。』

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『これは50日も外にあると、雑巾としても使えないんですね。これが終わる時におばあちゃんたちはやっぱり、泣いたり寂しかったりするわけですよ。田舎に行けば1月15日にどんと焼き(※)というのがあるんですが、翌年、前の年に使った古いものを燃やしたみたいです。ですから、こういう事をやるといいわけです。』

※日本各地で行なわれる小正月(1月15日)の火祭り。お正月に使った門松やしめ縄、お守り、破魔矢、祈願成就した「だるま」などを持ち寄って焼き、その火にあたったり、餅を焼いて食べたりして無病息災を願う。

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『これはクリスティアン・バスティアンスというオランダのアーティスト。日本・オランダ就航400周年を記念して、彼は日本に来たんです。彼はバブル経済破綻後の日本の問題はホームレスだと思ってきたわけですよ。でも、越後妻有の話を聞いて、そんなものは大した問題じゃないと。お年寄りが年をとっていく。だけど、先祖代々からの土地は「効率が悪いからやめましょう」と国が捨てている。こっちの方がずっと問題だといって、彼はこの土地に4か月間入ったんです。で、ず?っとお年寄りにインタビューしていくわけ。「孤独だった」とか「戦争に行った」だとか、いろいろ。「自分の母ちゃんが死んだ」とかね。で、とにかくいろんな人に聞いていくのですが、10人の人の典型的な録音を構成して「真実のリア王」というのをやったんです。10人の特色を造形したわけ。おもしろい造形でしょ? で、10の人を出すんですよ、その10人を。

 僕は心配でした。おじいちゃんおばあちゃんにリア王のセリフなんてできるわけがないと思った。だけど、今言ったようなやり方だから、自然にしゃべっている事を構成しているわけなんですよ。ものすごく感動的な舞台で。とにかく終わったあとみんな抱き合っているわけ。劇作家の太田省吾さんやNHK副会長の永井多恵子さんなどいろいろな人が観に来ていて、観ている人も感動しちゃう。つまり、捨てられていく土地と年をとる二重の孤独が本当によく出ている。しかも、田舎の言葉でしょ。

 ところが、2日目になると家族の中から少し冷ややかな意見が出てきた。「我々は観ているだけだけど、じいちゃんばあちゃんはただくっちゃべってるだけでいいな」って。まあ、たしかにね。でも、ただくっちゃべっているからリアリティがあっておもしろかった。で、2日目からはちょっと違ったんです。自分の声が流れ始めるでしょ。そうすると、パッと立ったり、手を挙げたり、立ってお辞儀をしたりして。それが、本当におかしかった。でも、本当に、これは感動した。だって、これはつまりこの妻有の田舎全部が主人公なわけでしょ。』

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『これは田中信太郎さんが、赤とんぼを縦に作って、この青い空と森の緑を見せようとしたわけです。田中信太郎さんというのは、ブリジストン美術館に抽象的な彫刻を作っている人で、抽象彫刻の名手なんですが、妻有に行くと赤とんぼを作っちゃった。それで、私たちが反対を押し切ってやったもんだから、さっき言った計画に反対した100人の議員が僕をつるし上げた。「教育上まずい」って。「赤とんぼは絶対に垂直に飛ばない」と。なるほど。だけど、僕は密かに「やったな!」って思ったんです。彼はおもしろかったんですね。でも反対した手前、なにか反対の理由を言わなきゃいけなくて。それで、思いついたのがこれだったわけです。今では、彼も一緒になって大工の手伝いをしてくれていますよ。アーティストもその作品を観る人も変わっちゃうわけですよ。』

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『この地域は雪が降るから、駐車場は天井がかまぼこ型をしているのが多いんですよ。そこにテーブルをひいて、窓を作って子どもたちが持ってきた、ちびた「えんぴつ」。それを並べてえんぴつの森から本当の森を見ようって。この本間純さんという人は絵本作家の五味太郎さんと一緒に組んでおもしろい絵本も作っています。』

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『これは、棚田を見せようという試みです。大岩オスカール幸雄さんというブラジル三世の方で、いま、ニューヨークで大活躍のアーティストです。この作品は田んぼに関わっている家族の肖像なわけです。この右側は、若いお母さんが子供を抱いている。本当は初めは嫌だって言っている人も、そこまでしてくれるんならって。だから、まだ立っていますよ。やめろなんて気は起こらない。』

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『もっと傑作なのが、ロシア出身のイリヤ・カバコフという大アーティスト。最高です。棚田の一番右は苗代、そして左に行くと田んぼを作っている。種まき、最後は収穫。いろいろな農業の場面を描いている。で、それを、川の向こうの棚田に作ったわけです。高さが3〜4mあるんですよ。そういうのを設置しようとしたんです。ここは福島さんというおじいちゃんが田んぼをやっていました。

 向こうには5つの彫刻があって、手前にスクリーンがあってそこに詩がかかれている。立体絵本なわけですね。向こうの絵と手前の詩がはまっているわけです。これは本当にすごく美しい。“四月、輝く太陽。雪は消え、湿っぽい霜が空中を充たす。ずんぐりした馬が、重い耕作用の鋤を懸命に引っ張る。春のうちに、田んぼの準備を入念に。新たな種まきと苗の植え付けのために。”って、書いてあるんですよ。
BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』まず、この福島さんは2000年に田んぼをやめるはずだったんです。だから、僕らに貸してくださいってお願いした。でも、冗談言うなって。で、いろんな人がカバコフに日本の農業を知ってもらうために、本を訳して読んでもらったり、この土地の昔の写真を見せたりして。それでこういう風にスクリーンに詩を書いて、立体絵本にする提案をした。そこまですると、こっちも向こうも大変でしょ。それで、福島さんがそこまで言うなら、じゃあやりましょうって。それどころか、今でも農業をやっていますよ。もううれしくてしょうがないんですよ。人が「美しい田んぼ」だとか言ってくれたり、見に来てくれたり。というように、初めの反対から一緒に仕事をしていくようになる。そうすると、福島さんは元気になる。作っている意味があるんですよ。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』『2003年の4月は、すごい雨が降った。雨のぬかるみの跡が見えるでしょ。この手跡がべたべたといっぱいついて、「七人の侍」の戦闘シーンを彷彿させるぐらいの感じでね。毎日新聞の記者は、「アーティストがいて見る人がいる、そうじゃないものが見えた」って言っていましたね。で、ここは雪が降ると重みでつぶれて危ないからつぶしたんですよ。だから、ここをつぶす前にたいまつを焚いて、かがり火をつけてコンサートをした。(人が)向こうまで満ち満ちていたんです。で、後日談がある。僕は良くできたって聞いていて、みんな喜んでいるもんだと思っていた。古郡さんが「またやりたい」って言い出したんですよ。「もっとすごいものを」って。それで今度、僕が集落に話に行くって言ったら、うちのスタッフが「北川さん、それだけはやめてください」って。みんなこんな事はもう二度とやりたくないって言ってるわけ(笑)。古郡さんも相当いじめられたみたい。集落の人々もぶつぶつ言いながらもやった。だけども、喜びなわけ。で「やめてください」って言われたものの、そうはいかないと僕が行きました。

 「みなさまご苦労様でした。古郡さんが『またやりたい』と言っているんですが……」と言うと、みんな「冗談じゃない。もう嫌だ」と。私が「では、他の地域でやっていいですか?」って言ったら、「冗談じゃない。我々がやる」って言ったんです(笑)。

 アートってなんの役にも立たないし、無償の、ただの労働でしょ。シリフォスの神話みたいに、ただ労働しているだけみたいな。だからできるんですね。そういうことでつながるんです。アートの持っているバカバカしさみたいなものが、人と人をつなぐというか。本当に僕も驚いたわけ。みんな、話したら「もう嫌だ」とか、ぶつぶつ文句言われて。「いかに大変だったか」って言うわけですよ。「ああ、すいませんでした。じゃあ別の地域でやります」って言ったら、こんな顔して睨まれたもんね。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』『これは蔡國強さんという世界の大スーパースターの作品ですね。前回の上海でのAPECで電車に花火をつけたんです。ものすごいですよ。彼は次の北京オリンピックもディレクターやりますから、とんでもないことやると思いますよ。ベネッセコーポレーションがある直島で文化大混浴ってのをやっているんですよ。そこで本当にとんでもないことが起きたんですよ。芸大の女性と、70歳のおじいちゃんが本当に結婚したんですよ。あっ、してはいないけど、親もついに合意した。そこでできたロマンスですよ。

 文化大混浴のせいかどうかはわからないが、そこでアートを見に行った美術志向の女性と、そこで説明をしていたおじいちゃん、もちろん、ちゃんとした方なんですけれども、本当に恋に落ちたんですよ。

 蔡國強は中国の福建州出身です。中国も近代化・合理化の中で、こういった30mもある登り窯をどんどん壊している。彼は、それは忍びないと、日本に移築したわけです。これは美術館です。美術館というのは金がないとできないっていう常識があると思いますが、「そうじゃない」と。美術館をやりたい人と、そこに出展したい人がいれば、美術館は成立するんだということ。で、日本のどの近代美術館が呼んでもOKを出さなかった超スーパースターアーティスト、キキ・スミスを呼んだ。彼女は「ここならやります」って。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』『こういう、美しい作品を作っているんです。忙しい人なんですが、彼女は2週間日本に滞在して作業をしました。この作品は彼女自身と重ね合わせている。田舎の一人の少女が薪を拾って、洞窟があったから少し休もうって。その休みは一瞬の休みかもしれないし、それは永遠の休みかもしれない。そういうことが伝わってくるような、しみじみとした展覧会でしたね。キキ・スミスの作品って大変な値がついているんですが、見張りもいない、除加湿もされていない、保険もかかっていない。そういうところで50日間やりました。でも、本当に事故は起こらなかった。来年はまた別のアーティストがやります。蔡國強さんは、自分はここの館長だって言っていますからね。』

『成田と妻有しか知らないドイツ人もけっこういますよ。ちょっといばった話ですけど、フィンランド、フランス、オランダ、オーストラリアなどでは大地の芸術祭は世界一の展覧会だって言っているんですよ。そこで選ばれたアーティストたちの足代は国が出してくれますよ。そういう意味で、20世紀は都市の時代でしょ。で、今までは都市の美術しか私たちも知らない。近代というか都市の時代を映しこんでいた。だけど都市も病んできた時に、美術も病んできたんですよ。美術はもっと楽しさや可能性があるのに。(妻有のような)こういう場所で少し何か見えてくるんじゃないかとみんな思いだしたわけです。みなさんご存知のピーターラビット。イギリスの湖沼地帯の土地をピーターラビットを守るためにナショナルトラストで買った。そこの理事長が妻有に2週間滞在したのですが、越後妻有と組んで一緒に大地のアートをやろう! って言っていましたね。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』
『これは、小さな村立の体育館。2000年の夏が終わると、この建物は壊すことになっていた。校庭には昭和30年に8.5m雪が積もったという印があるんですよ。北山善夫というアーティストは時々仕事で岐阜に帰るんですが、3?4か月滞在して赤と白と黄色の竜のようなものを作った。でも、これだけじゃない。ずっとそこにいるから、やがて廃棄されるであろう文集とかスナップ写真とか、答辞とか送辞とかそういうのを全部編集しなおして、それをものすごく美しく展示した。僕にとっては本当に生まれて初めての体験だったんですが、ここに行った瞬間、子どもたちが遊んでいるように見えた。ざわめきが聞こえたんですよ。それはおそらく、自分の体験に合わせて、時間が蘇ったんです。それは僕だけじゃなかった。すごくアクセスが悪い場所だったのですが、最後の1週間位は車がダーッと並んで。地域の時間というものが蘇ったんですね。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』
『これは韓国のアーティスト金九漢。地域の人が「集会所がほしい」と言うから、1年半かけて集会所を作ったんです。焼き物で出来てます。ものすごい焼き物。造盤しながらこの上にもう1つ釜を作って焼いた。地域の人は後でこう言いました。「韓国の人たちは何もしない。毎日温泉に行って飲んだくれていて、今なら言えるけど本当に帰ってもらおうと思ってた」って。でも、だんだんコミュニティの中でいろいろ出来てきて、いまこの集落は金九漢の指導のもと、焼き物をこの地域の物産として売り出そうとしている。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』『1つわかりやすいものを出します。横浜トリエンナーレでもエースだったリチャード・ウィルソンっていうイギリスの大彫刻家。彼はイギリスにある自分の自宅をそのまま、地球の裏側を通してくれば逆さまに建つだろうって。これは中学校の前でやっているのですが、ちょっと造形っぽいでしょ。これを作ったのが前田建設という会社。高層ビルはいっぱいあるけれども、一度一分も変えないで建物を斜めに建てるというのは、今の技術では非常に大変なんです。ノウハウがないから。前田建設は会長はじめ、社をあげてこれに.取り組んだんです。終わってから、リチャード・ウィルソンさんと前田さんが、この中学でなぜ私たちはこんなバカなことをしたかっていう授業をしました。感動的でした。なぜ僕は前田建設を褒めるかというと、全社員名刺にこの建物の写真が入っているんですね。それで「一切お金は貰わない」って言ったもんね。私たちはこの建物を作ることに関われて嬉しいと。なんかこう、ものつくるっていう触れ合いのようなものができているんですね。』

 『やると楽しいんですよ。でもやるまでは反対も多い。ちょっと真面目なことを言いますと、あの地域の人たちの属性は過疎地で農業をやってきたじいちゃん、ばあちゃんたちで。そこに、アーティストや都市の若者がやってくる。何やっているかわからないような。世代とジャンルと地域を越えた人たちが出会って、そこで何かが動き出した。ものすごいですよ。いま東京で、大学の先生や会社の経営者が、いかにこのプロジェクトを手伝うかって真面目に週一回ぐらい、いろんなところで相談を受けているんです。信じられないことが起きている。地域の人にとって都市の人は必要だけど、それ以上に都市の人が地域を必要としているんです。自分が本当に欲せられる場所がある。地域がこのように崩れていく。私たちも危ないと思い始めたってことです。

 松代にある3つの建築、公園が世界の建築ベスト100に選ばれています。だからレベルは高いです。来年は古くなって全部壊されていく空き家で何かしようと準備しています。壊すばっかりの家をギャラリーとかショットバーとかに変えるわけですね。』

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』『クリスチャン・ボルタンスキーという美術家とジャン・カルマンという大演出家が組んで、廃校につくったんです。入るとスリッパがあって、廊下がある。廊下に戸が立っていて窓から奥の体育館にピアノがあって小学校唱歌が流れてくる。本当にぞ?ってしてくるわけ。で、2階に行くと理科室、音楽室があって。主役がいなくなった切なさというか、そういうのがぐ?っとくるんですね。ボルタンスキーは世界最高のアーティストでジャン・カルマンもすごい演出家。ほとんど一銭も使わずにやりましたからね。ほとんど、そこにあるもので作りました。僕にお金がないことを彼らは知っているんです。でも、来年彼らはここを美術館にします。詳しくは何も言わないんですが、おそらく美術館でありながら、さっきの北山さんを彷彿させるような、人間の影がふわぁ?って消えるような、そういうようなことをやろうとしているんじゃないかと思います。美術館でありなら舞台を作ろうとしている。やるからには絶対にベストをつくしますからね。今までに最高の「美術館でありながら劇場」を作るみたいです。』

 『昨日は大変だったんですよ。ツアーで代官山を回って、立川でまたツアーして。僕ねツアーばっかりやっているんですよ。この間計算したら、人生の10分の1はツアーしていますよ。立川にはもう300回ぐらいは行ってるし。妻有も開期中は毎日やっていますし、今でも月に2回ぐらいは。

 今日は呼んでいただいてありがとうございました。』

ビーグッドTALK−2:光と闇の神話
ゲスト:向坂“MOOKY”雅浩さん(エンパシー/プロデユーサー)

* アートビデオ紹介:光と闇の神話「WORLD SPIRIT」

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』

詩とストーリーテリング、音楽、神秘的な絵画がステージ上で融合されたマルチメディア・ショーである「WORLD SPRIT」。今年3月に行われたライブのダイジェストを見ながら、プロデューサーである向坂MOOKYさんに作品の紹介をしていただきました。サイケデリックな宇宙の神話的世界観は刺激的でした。

GREEN ROCK
BeGood Cafe Vol.83 GREEN ROCK / SUGIZO,KNOTO,TETRA
”SUGIZO,KNOTO,TETRA”

急遽TOOWA2のVJも加わり、4人のアーティストによる音と映像のセッションとなりました。バイオリンの音が人の声にも、植物の声にも、星や水の声にも聞こえ、地球の記憶をめぐる旅のように感じられました。

SMILE ワークショップ
和尚アートユニティ チャクラ・レゾナンス・メディテーション

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』
楽器「クリスタルボウル」をベースとした音と自分の声によってオーラの中の不要なものを取り除き浄化するワークショップを行った。今回行ったのは上昇瞑想。第1?第7のチャクラそれぞれに音と色があり、その色をイメージしながら音に合わせて声を出す。声を使って体のなかを震わせることによって音とともにエネルギーを高め、バランスを取り戻すことができるのだそうだ。クリスタルボウルの音と自分の声が共鳴していくのがとても心地よく、意識はあるのに眠っているような、開放的でとてもリラックスした状態になった。

SPEAK OUT!

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』
“オープンマイク”で何度か登場していただいたGOさんとアウトノミアさんによる詩の朗読と、あじまスローのさちこさんは高知でつくったという朗らかな歌をうたってくれました。そしてスローの小澤さんはラップの「酉年の歌」を披露。残りあと少しになってしまった「酉年」を「取り戻して欲しい!」とパワフルなパフォーマンスにお客さんもノッていました。

NPOインフォメーション

BeGood Cafe Vol.83 ビーグッドカフェ芸術論『アートと希望と光』
“PEACE ON”による「LAN TO IRAQ」というイラクの文化交流アートプロジェクトと画家ハニ氏の個展の紹介。“地球平和公共ネットワーク”による東京平和映画祭の告知。アースデイ東京2006のイベント企画構想のお話がありました。

■スケジュール 2005年11月20日(日) 14:00‐20:00

14:30-15:15 SMILEワークショップ (メディテーション)
15:25-15:40 SPEAK OUT !
15:40-16:00 NPOインフォメーション
16:15-18:45 ビーグッドTALK
19:00-19:40 LIVE(SUGIZO & KNOTO & TETRA)

■会場 代官山Ball Room
代官山BalRoom map
東急東横線代官山駅より徒歩1分
JR/日比谷線 恵比寿駅より徒歩8分
渋谷区恵比寿西1-34-17 ZaHOUSEビル
代官山Ball Roomへのアクセス
※お車でのご来場はご遠慮ください

■料金(出入り再入場可)
一般1,500円(または1,000円+500地域通貨*)
ビーグッドカフェ会員1,000円
小学生以下無料
地域通貨*=Rainbow Ring、アースデイマネーが使えます。

■お問い合わせ
・BeGood Cafe/03-5773-0225

司会:シキタ純、市川美沙 VJ:TOOWA2 DJ:MARUCHAN
主催:BeGood Cafe
共催:CAMUNeT http://camunet.gr.jp/
協力:ASADA(Airlab)、OneWorld国際環境ビジネスネットワーク http://www.oneworld-network.com

★Thank you for not smoking 会場内は禁煙です。

ゲストプロフィール

■北川フラムさん
アートディレクター、アートフロントギャラリー代表 ほか

東京芸術大学美術学部卒業 1978年「ガウディ展」を全国11ヶ所で巡回、 1980年に「子どものための版画展」を小・中学校中心に全国で巡回。 1988年には「アパルトヘイト否! 国際美術展」を全国194ヶ所で巡回。 草の根的なプロデュースを展開し、それまであまり知られていなかった ガウディとアパルトヘイトに反対する芸術家の動きを日本に紹介した。 代表的なプロジェクトとして「ファーレ立川アート計画」など。 また、活動の拠点である代官山ヒルサイドテラスはその都市文化への発信に対する貢献で1998年度メセナ大賞を受賞した。 1997年より十日町地域ニューにいがた里創プラン事業総合コーディネーターとして、越後妻有アートネックレス整備構想に携わり、 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」では総合ディレクターをつとめる。
http://www.artfront.co.jp/jp/afg01_6.html

■向坂“MOOKY”雅浩さん
エンパシー/プロデユーサー

イベントや舞台、ファッションショーなどの企画や演出、プロデュース、ディレクション、DJなど、多岐に渡る才能を使い意欲的な活動を展開する。日本に 於けるアンビエントDJのオリジネーターであり、エレクトリックとアコースティック、民族音楽が融合した21世紀の地球音楽”ハイブリットミュージック”を提唱してきた。12月2日に開催される「World Split」では、総合演出をつとめる。映像とパフォーマンスが一体となり、リアルタイムに呼応して変化するそのマジカルなステージは、今までにない新 しいスタイルのアートフォームだと言えるだろう。

http://www.empathy.co.jp/index.html